【書評】「史上最強の哲学入門」最高に熱い哲学入門書
最高に熱く、面白く、何よりわかりやすい哲学入門書に出会ってしまいました
それがこの本、飲茶氏著「史上最強の哲学入門」です。
「教養として哲学を学んでみたい。でも難しそう……」
それがこの本に出合う前の私の率直な気持ちでした。
実はこれまでも、哲学入門と題された本には何度か挑戦してきました。
どの本にも「イデア」「経験論」「実存主義」「構造主義」といった、
聞き慣れない単語いくつも並び、わからないなりに何とか解説を読み進めるのですが、
読了しても特に何かを得られたという感覚はありませんでした。
ですが、この本はそんな普通の哲学入門書とは違いました。
まず、表紙が違います。
「バキ」で有名な板垣恵介氏の手で描かれたインパクト溢れる老人の横顔。
大書された「史上最強の哲学入門」という挑戦的なタイトル。
思わず手にとってしまう魅力に溢れた表紙です。
中身も違います。
まず、著者である飲茶氏はまえがきでこう言います
哲学者とは、バキに出てくる格闘家と同じである
ちょっと何を言ってるのかわからないと思います。私もそうでした。
でも、読み進める内に飲茶氏の言わんとすることが理解できました。
漫画「グラップラー刃牙」の中にこんなセリフがあります。
「地上最強を目指して何が悪い!!!
人として生まれ男として生まれたからには誰だって一度は地上最強を志すッ
地上最強など一瞬たりとも夢見たことがないッッ
そんな男は一人としてこの世に存在しないッッ
それが心理だ!!!」
このセリフにあるように地上最強を一度も夢見たことがない男がいないのと同じで、
真理について一度も考えたことが無い人も恐らくいない、というわけです。
「いやいや、俺は真理についてなんて考えたこと無いよ」
そんな風に思う人も、例えば以下のような問いについて
考えたことはあるのではないでしょうか。
- この世界はどのようにして生まれたのか?
- 何故、自分という人間はこの世に生まれたのか?
- 人はどのように生きるべきか?
- 死とは何か。人は死んだらどうなるのか?
本書によれば、このような答えの無い問いに対する解答こそが真理なのです。
そう、バキ風に言えば、誰もが一度は真理に向き合います。
でも、ある人は受験勉強に、ある人は仕事の忙しさに、
ある人は答えの出ない問いについて考える虚しさに屈して、
真理の探究をあきらめてしまいました。
でも、それでも真理の探究を諦めなかった人々がいます。
答えの無い問いに対する答えを追い求め、
自分なりの最強の「論説」を打ち出した者達がいたのです。
それが「哲学者」
バキの格闘家が肉体的な強さによって地上最強を目指す者達なら、
哲学者達は知によってより強い「論説」を生み出し、
史上最強の真理を目指す者達というわけです。
こんな風に考えると、哲学者達の生き様や論説に触れてみたくならないでしょうか。
この本には最強の真理を追い求めた31人の哲学者が紹介されています。
著者飲茶氏が、彼らが生きた時代、その生き様、そして彼らが真理に立ち向かった末に
打ち出した「論説」について、熱のこもった筆致で、わかりやすく解説してくれます。
哲学書にありがちなわかり辛い言葉は極力使わず、
哲学を熱く、わかりやすく語ろうとする著者の思いが伝わってくる良書だと思いました。
この本で語られる哲学者達は誰もが魅力的です。
- 真理なんて人それぞれ違う、とクールに言い放った弁論術の達人「プロタゴラス」
- 対話によって真理に近づこうとし、最期は死刑に処された元祖哲学者「ソクラテス」
- 全てを徹底的に疑った末に、絶対に疑えない所から真理の探究を始めよう、
- と近世哲学のスタート地点を作った男「デカルト」
- 論説をぶつけ合うことでより真理に近づくという、真理への道筋を示した「ヘーゲル」
- いつ到達から出来るかわからない絶対的な真理じゃなく、今、自分が生きていく上での答えが欲しいといった実存主義の祖「キルケゴール」
- 神は死んだと既存の道徳をぶち壊し、
- 新たな時代を生きるための哲学を示した「ニーチェ」
等々、多種多様な論説を語る哲学者達が登場します。
きっとこの本を読めば、あなたにもお気に入りの哲学者が見つかることでしょう。